Non Fiction/Et Cetera(#2)
- 武器としての宣伝
- 著:ヴィリー・ミュンツェンベルク
- 柏書房
ナチが宣伝をどのように利用し、どのような意図をもって行っているかを二次大戦の二年前という時期に反ナチの立場から書いた本である。著者は「赤いゲッベルス」と呼ばれた社会主義者であり、宣伝分析の金字塔とも言うべき本である。
この時代の社会主義者が書いたものといえば、革命に成功したソ連を率いるレーニン・スターリンへの礼賛と階級闘争一色で、現在では読むに耐えないものだが、この「武器としての宣伝」は「目覚めた労働者」等の表現が散見される程度で、社会主義者が書いたという事が分かっていればむしろ意外なほどイデオロギー色は薄く、ナチ宣伝の手法と限界を同時代にドイツに生きた人間として具体的に描いており、現在でも十分鑑賞に耐えるものとなっている。
ヒトラーが第一次大戦のアメリカの宣伝手法に学んだことや、反論によって自身の「無謬性」を損なう可能性のある敵陣営では一度も演説をしたことが無いこと、ヤジなど自身の権威を損なう人物を物理的に排除する手段を持つことによって「神話」が維持されることなど、具体的な例を挙げて宣伝分析が行われている。
敵対者を排除し、政治的訓練の不足した者をターゲットに礼賛者を増やしていくことがナチ宣伝の本質である、というのが著者の主張であり、敵を排除する暴力装置が宣伝とは不可分であること、逆に反論によって容易に無謬性が傷つくために、そもそも獲得できる支持者にある種の限界がある事などが分かる。
訳者が冒頭でナチ宣伝に対する無理解の例として、自民党東京都連が「ヒトラー選挙戦略―現代選挙必勝のバイブル―」という本を出版してイスラエルからの抗議により回収絶版されたエピソードに触れている。暴力装置を持つか否かと、獲得する支持者の質という本質的な問題を回避することなどプロパガンダにおいて――少なくともヒトラーを引き合いに出すならば――できるはずもない。むしろ無邪気な話で、煽動家はまだまだ生まれないなぁというのが、感想でした。
- イラク 戦争と占領
- 著:酒井啓子
- 岩波新書
イラクの占領政策が失敗し続けている理由を多面的に描いた本。アメリカの対イラク政策の信じられない程の行き当たりばったりぶりが書かれていて、薄い本なのに先を読むのが苦痛になってくる。
NHKスペシャルでもやっていた亡命イラク人による「イラクの将来プロジェクト」という占領方針勧告文(というか「べからず集」レベルだが)も、ほとんど国務省内のガス抜きでしか無い事が書かれている。つまるところ「独裁者の恐怖と民主主義についてはイラク人よりも良く知っている」という態度なのだが、イラク人への甚大な被害はもとより、結局はアメリカ自身が陥穽に陥っている。
官僚組織において物事を成す能力や、選挙民からの支持を得る為の能力は、国内政治の場では有効だが、こと外交問題の解決には全く適していない。アメリカ国民の支持や実感、官僚の間で図られるコンセンサスなどは、イラクの問題解決とは全く無関係の事柄だからだ。
ベトナムの失敗を描いた「ベスト&ブライテスト」の世界が同じように繰り返されており、この本が描き出すのも典型的な「アメリカ型失敗」の具体例と、その犠牲になっているイラクの現在である。